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2014.09.01

善意は興味でできている

 私は猫が好きで、自宅でも飼っているし、友達に猫を飼う希望がある人がいればなるだけ里親紹介サイトなどで引き取ることを奨励したり、たまに動物の愛護のための募金があれば寄付をしている。別に誰かにいい人と思われたいという話ではなく、猫が好きで可愛いと思い、また恵まれない立場の猫がいるのであれば救ってあげたいと思うから無理のない範囲でお金を投じているだけだ。

 猫と人を比べるのは良くないのかもしれないが、このところ良く慈善事業の助成の相談を受ける。どれも大事で立派な事業だから、すべてにできる限りの手当てをしてあげたいという気持ちはある。ただ、お金を投じるからには行く末を見守らなければならないし、それ以上に社会で必要とされる金額に比べて多少金持ち程度の私の財産ではすべてに行き渡らせることなどできない。

 だから、私は自分がやっている慈善活動や寄付については、児童養護施設など自分の興味や関心を持っている対象に限定して、時折起きる自然災害で被災された方への募金などは呼びかけに応じて行う程度にしている。

 氷水をかぶる類のものはもちろんだが、それをするしないは別として、そういうALSなど難病に苦しむ人たちが寄付を求めている活動に関心を持ってもらうのは優れたマーケティングである。問題は、寄付が続かないことだ。あるいっとき、感動してお金が集まったのだとしても、その翌年も、翌々年も、安価で画期的な治療法が確立するそのときまで常にお金は求められ続けている。何かにコミットするというのは、自分の人生が続く限り、自分の思っていることや理想とすることに対して、物事が改善するよう活動し続けるという意味だ。寄付というのはその一形態だが、同じ寄付をするのであれば、問題が解決に向かっていくのだというものを見届けるコミットだと思っているので、求められる寄付の全部に対してコミットできないことを理解しない人たちが提案してくるときほど困ることもない。

 社会活動や、公の財産を自治体ではなく企業が携わるというのは、私はあまり好まない。自治体もそうだが、企業は一層採算に縛られる。介護事業しかり病院運営しかり自治体物販しかり、その地域の人たちのコミットを引き出し、世の中をより便利にするための創意工夫の場として企業を立てる、活用するというのは良いのだが、往々にして、企業は不採算を理由にコミットした内容を放り投げる。というか、そもそも介護自体がカネになるものではない。当たり前だ、資産もない死にゆく老人の介護に国や自治体がお金を払うのは、それが非効率であり採算が取れないけど社会的に必要な事業だからだ。そこにあるのは義務であり社会の決め事なのであって、善意や配慮だけではない。

 ところが、昨今の議論を見ていると、氷水でも老人介護でもそうだが、なぜか話が美談になったり義務になったり同調圧力になったりする。困っている人たちが置き去りになっているというか、氷水を被る寄付のマーケティングがファッションとして消化されて、誰がやった、誰から頼まれた、どういう動画が上がった、あいつの被りっぷりはどうだ、という話になってしまう。せっかくだから、おおいに氷水をかぶる話と一緒に、ALS患者の現状や、困っていることを話してくれれば、一人でも二人でも、一生ALS問題に向き合っていこうという人も出るのかもしれないが、私の観測範囲ではあんまりそういう人はいない。

 寄付というか、慈善事業というのはそういう話じゃないはずなんだがなあ。

 何より、これからの社会保障の問題は私たち全員が直面する問題であって、氷水では絶対に解決しない衰退と貧困との戦いであることを良く考えておかなければならない。それは、弱者にしわ寄せが行きますよという話と、いつでも私たちが弱者に転落する可能性があるんですよという話との両面なんだよね。

 逆に言えば、何にコミットして、何にコミットしないかという判断を突きつけられる時代になるんだ。そして、コミットが得られなかったステークホルダーは崩壊する。ALS患者の影で、他の難病への民間からの寄付がちょっぴり減ったかもしれない。高齢化したある自治体は利便性故に投資の対象となり、その隣の自治体は消滅に追いやられるかもしれない。いつの間にか切り捨てられる側になる時代に差し掛かっていることを、氷水の議論をすると共に私たちは語る必要があるんじゃないのか。



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    やまもといちろう

    ブロガー・投資家・イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。
    著書に「ネットビジネスの終わり (Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など多数。

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