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2013.04.22

製造業の人たちは本当に凄いんだぞ、って話

 伊藤慎介さんという経済産業省のお役人さんが、経営不振の製造業のところだけ見て「日本の製造業は独創性のある社員の使い方に問題がある」とか「優位な人材を使いこなせない経営陣は退陣するべき」などというニュアンスの与太話をぶっていました。

現役官僚が提言!日本のモノづくり衰退の真因は
組織的うつ病による「公私混同人材」の死蔵である
http://diamond.jp/articles/-/34702

 その論旨があまりにもクソであったので、Y!J個人に「そのりくつはおかしい」という話を掲載したわけなんですが。

経済産業省の「現役官僚が提言!」らしいんですが、何を言いたいのか良く分かりません
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yamamotoichiro/20130422-00024512/

 伊藤さんの書いている内容がまったく根拠もなければ実証もできない感情論と精神論で日本の製造業をDISってて情けない気分になったわけなんですけれども、極東や東南アジア、中国など現地で会う日本人の製造業の人たちは凄すぎます。確かに、現地で日本人水準の給料をもらっているというだけで特権階級ではある場合も多いんですけれども、私のような金勘定や資源系商取引でフワッと現地にいって交渉して帰ってくるだけの人間からしますと、恐ろしいほど優秀で独創的でマネジメント能力に優れた人たちが育っています。

 だって、家族連れて6年とか7年とか現地採用の皆さんと集団で工場転がしてモノ作って検品して輸出してるんすよ。日本企業だったら波を打ったように静かになる全社集会とか、一度中国工場の見物にいったことがあるんですけど、もうね、質問したくて社員同士でマイクの奪い合いが発生したりするんすよ。中国工場では備品がすぐになくなるから社員同士の持ち物チェックや監視カメラで見ながらも意識付けをして「お前らを信頼しているからな」とか言ってマネジメントやってるんすよ。

 んで、ちょっとでもギャラがいい働き口が見つかると従業員がごっそり移動してしまう、そうなると大変だから中国人の家族同士や地縁血縁駆使しながら欠員が出ないようにシフト組んだり地元有力者に頭下げて回って溶け込む努力して、ようやく普通に回るかな? という程度。日中間で小島巡って鬩ぎ合いがあると日本資本というだけでヘイトの対象になる、それでも工場開けて最前線で転がしてる。

 凄いんだよねえ、現地でマネジメントしている製造業の日本人社員。ハングリーではないとか、意志決定が遅いとかあれこれ注文つくことはあるみたいですけど、20代で500万600万貰って現地出向いてそのまま数年いる日本人とか、信頼せずにはいられません。

 彼らの創意工夫を引き出す努力は凄まじいです。製造工程改善し続けないと死んじゃうから。これはもうね、製造業のDNAですよ。以前、でっかい半導体工場とか視察したけど、それはもう凄かったです。いろいろあって書けないけど。

 そんで、そいつらはより安い労働力と安定した電力と港湾までの渋滞のない輸送路を求めて別の東南アジアに生産力を何割か持ってくんだとかで、準備してるわけです。本当に、文字通り泣きながらリストラしているわけですよ。中国人、給料上がってきてしまったから。数年一緒に働いた社員を、給料上がったからって解雇するんです。

 別の会社では、貿易実務のヘッドオフィスを香港に持っていたんですけど、マレーシアに移転しました。それはジャパンパッシングとかそういう文脈ではなく、製造業として、知的生産ではない分野のコストをどう下げるのか検討を重ねてのことでした。で、R&Dやデザイン部門をむしろ日本に戻したりしている。試作を日本でやるかどうか、検討しているのも、基礎研究を中国から引き上げるのも、理由は明確でコストと品質の兼ね合いからですよ。

 伊藤さんが「最近の日本製品の傾向として、このように過去の延長線上でのモノづくりや、機能性の重視のモノづくりばかりが重視され、全般的につまらなくなっている」とか書いてました。これ、単純にPanasonicのことですよね。でも、彼らが不振なのは、機能性を重視しきれなかったことですよ。必要な機能だけに絞り込んで、安く製造する力がなかったので、ノンブランドの製品に欧米市場で負けているんです。

 また、「売り上げ・利益・シェアばかりを重視し、数字で見える成果のみを評価し」ているのがいけないみたいですが、売上と原価がしっかり管理できていなかったら、製造業は経営できないんですよ。だからこそ、数銭の社内レートですら各部門、各地域子会社と轟々の議論をするんじゃないでしょうかね。貿易分野は特に、ルーブルが何%下がった上がったで大騒ぎなんですけど。

 確かに日本が高度経済成長で培ってきた職人的な古き良きモノ作りは廃れたけれども、次世代の知的財産ビジネスやコモディティ化が進む製造業分野での叩き合いについては、もう少ししっかりとした議論をして欲しいと切に願っています。


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    やまもといちろう

    ブロガー・投資家・イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。
    著書に「ネットビジネスの終わり (Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など多数。

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