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2013.02.20

ポジティブ経営者の状況認識

 どちらかというとネガティブな方向に状況を考えがちな私にとって、リスクを恐れず積極的に事業展開をするポジティブ思考の経営者というのは羨ましくて、個人的には「いや、もうその市場は天井が見えているし、いま参入しても収益は得られないだろう」と思って投資しないような事業でも平気で進出する。しかも、自力でだ。

 手広くいろんなことをやるというのは、事業意欲が旺盛なことの表れであって、それは非常に良いことだろうと客観的には思う。IT系だったかと思えば飲食店、金融、環境ビジネス等々、話題になり直近収益になりそうなところには何にでも手を出す。いままで畑違いだったはずのゲームビジネスに参入したり、そうかと思えば大規模ソーラーだ不動産仲介だとあれこれやっていて凄い。上場が近いのか、管理系の人間をたくさん採用している。そう頻繁には会わないが、あれだけたくさんリリースを出しているのなら、相当はぶりは良いのだろう。

 ところが、先日共通の知人で彼の仕事を手伝っている大学の後輩(男)が、ある作品のゲーム化が炎上したというので相談にきた。最初は「よくそんな大物IPを確保できたもんだ。さすがだな」と思ったが、内容を確認して精査するうちに、こっちが青くなった。締め切りはもうすぐなのに、品質が低いどころかモノが動かないのだ。普通なら「素材はあるけどプログラムが遅れていて動かない」とか「仕様が膨らみすぎて、バサバサ切り落として対応しなければならないがそのノウハウがない」などといった相談なのだが、この場合は違った。みんなが知ってる有力版権のタイトル絵だけがあって、後ろには何もない。もはや「バンドメンバー募集。当方ボーカル」という状態である。

 これはさすがに対応しようもないので断っても、なかなか帰らない。というか、帰れないのだという。社長がポジティブすぎて「やればできるんだから、全力でやれ」としか言わないからなのだそうだ。確かに意志の力は偉大だが、物理的にできないことを可能にする意志というのはマジックポイントといって魔法使いの領域である。どちらかというと、我々の職業は盗賊であって、物事を上手く運ばせることには関心があっても両手両足で実現できないことは専門外なのだ。

 ずっと喫茶店に座っているわけにもいかないので、あれこれと事情を聴いているうちに後輩(男)が泣き出した。それはもう、おいおいと泣くのである。ちょっと待って欲しい。周囲の目が厳しすぎるのは、男同士冷めたコーヒーカップ挟んで別れ話をしているようにしか見えないからだろう。まあ、こっちとしても小銭置いて店を出るわけにもいかず、あれこれ諭して再会を約束して別れるほかないわけだが、そのまま電車にでも飛び込まれるのではないかと心配になった。彼も妻子がいるのに。

 ポジティブでリーダーシップがある人でも、このあたりのバランス感覚というのは大事だと思う。能力のないポジティブ、計画のないリーダーシップは、それって単純に無謀なブラック企業に簡単になってしまうだろう。後輩が言っていたのは、会社が急に膨張して、となりの部門が何をしている会社なのだか分からない、誰が援軍になってくれるかも知らない状態だという。そして、自分の部門は単純なゲーム一個まともにリリースできないので、宙ぶらりんで困っているとの話。それって経営や部下のケアといった、小さな問題じゃないような気もする。

 さすがに見かねて、経営者に電話を入れ「お前の会社どうなってだ」と訊いたら、その問いの直後に夢中な声で新規事業への進出を検討している話をし始めた。確かにこりゃあ炎上もするのだろう。積極的に事業を展開したいという野望も分かるが、物事には立ち止まって考えて適切なペースで展開していくというさじ加減があると思うんだけど、どうなんだろうねえ。

 その意味では、昨今のイット系のブラック傾向というのは、この辺の前向き経営者が無理な仕事を部下に押し付けて収拾がつかなくなるけど経営者本人に問題処理の能力が備わっていないで、指示が「全力で立ち向かえ」的な内容で終わってしまうからなんじゃないかと改めて思った。言われてみれば、コンペなどであからさまに赤字の金額で数字を入れてきて、受注してたけどやっぱりその予算では制作できなくて炎上して、コンペで落ちたはずの弊社に泣きついてくるケースはとても多いのである。

 大きいタイトルでも、ゲームクリエイターが風呂敷を広げて大規模予算で云々という話をして、うまくやって受注しても、納期どおり制作できなくて、でも遅れているという報告も滞って、気がついてみると大変な遅延をして大炎上というケースもある。相談があるというので話を聴きにいくと、その責任を被るべきゲームクリエイターが会社分割して社員引き連れて別のパトロンのところに逃げたりしている。私なら絶対に許さないけどなあ。炎上させられた発注元が可哀想だし、義理もあるだろうに、何をやっているんだろうか。

 そういう理解できない話が立て続けにありました結果、昨日発行する予定でしたメルマガの執筆が遅れております。お詫びとともに上記事情につきましてどうかご査収ください。本編は今夜発行予定です。よろしくお願い申し上げます。


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    やまもといちろう

    ブロガー・投資家・イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。
    著書に「ネットビジネスの終わり (Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など多数。

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