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2012.05.03

数字をきちんと読めない人がフェアトレードとか言い出すと大変なことになるかもしれない(メモ)

 FACEBOOKで回覧されていたネタが珍妙だったので、シェアしつつ調べていたら、どうも根本的なところに認識ミスがあったようなので、気になってメモ。なお、お話の振り出し元は堀江健太郎さんという方ですが、ご面識はありませんし、本稿は彼を批判するものではない、とあらかじめご認識ください。

 で、これ。要するに「コーヒー農家はやっすい値段で商品を買い叩かれて、利益はコーヒーチェーンが持っていってぼろ儲け。そういうクソみたいなコーヒー農家の労働者になって搾取される側にならないよう教育すべき」という話ですね。

Sutaba_1


http://www.facebook.com/photo.php?fbid=3906564591039&set=a.2304578822396.135807.1487030623&type=1&theater

[引用]この絵、学校教育としてきちんと伝えるべきだと思う。
突き抜けないとこの絵の底に溜まったコーヒーしか飲めないよ、ということを。

コーヒー農家に限らず「一般的」な世界ではプレーヤーが違うだけで、個人に還元される利益はどこも同じような構造だと思うので。

俺はこういう構造に気付くまで多くの時間を要してしまったけれど、気が付いてからは違う目で世界を見ることができるようになったから。
こういうことを知ってるか知らないかだけで人生は大きく変わると思うし、少しでも若いうちにこういうことに気付き、自意識の高い人が生まれたら嬉しいな。

 でもこれ、結論からいうと、「お前が飲んでいるコーヒー代というのは店舗の不動産賃貸代であり内装費用であり運搬費用でありブランドビルディングのための広告宣伝費でありバイトの雑給であり社員の人件費なのであって、常に代替需要に晒されている外食業界というのは構造的にそうなる宿命であり、仕入原価よりも問題とすべきはお前の座っている椅子やテーブルの時間貸しの性質であり、お茶などその店に立ち寄る口実に過ぎずテイクアウトはお前にとって根本的に損」という話で、フェアトレードとか搾取を喰らうコーヒー農家がクズだという話からはメカ次元の彼方にある議論だろうと思います。

 っていうか、元の図は「小売業者」って一本でまとめているのが汚い。とても汚い。ミスリード誘発をガン狙いしている、四球狙いの鳥谷的アプローチですね。その肝心の内訳が大事だと言うのに。

 端的に説明すると、スターバックスジャパンのIR資料を見れば分かるんですけれども、かかっている費用のかなりの割合は販売管理費です。ハイライトの下っかわに、年次のP/Lダイジェストがのっかってますが、製品原価が30%弱なのに比べて、売上比で販売管理費が60%以上になってます。

http://www.starbucks.co.jp/ir/highlight/

 で、コーヒー先物市況と年限別の数字で見ると、FOBレートでみて荷揚げした一般単価から逆算したトールサイズのコーヒー豆の単純原価は調達で15円から17円20銭ぐらい。もっとも、スターバックスほど世界的な大手コーヒーチェーンならば、契約農家からの集中購買をしていると思うので、調達における単純原価はもっと安いかもしれませんが。

http://commodities.reuters.co.jp/default.asp?pg=story&newstype=coffee&story=1CF011_20120502.xml

 ただ、逆に言えば安くコーヒーを飲みたいよ、という話で、スタバやタリーズやエクセルシオールは暴利だ、コーヒー農家はプロレタリアートだ搾取される側だ暴動だということであれば、純粋に豆の卸売りを受ければ良いという話になります。要は、豆買ってお前が挽いて煎れて飲めということですね。

 同じく、スターバックスを例に取ると分かりやすいんですが、お店や通販らしきものでコーヒー豆を販売しております。いわゆる小売なんですけど。

http://store.starbucks.co.jp/coffee/lineup/

 挽き終わったインスタントは、12本1,000円とかで売ってるわけですねえ。普通のお豆であれば、226gが2,600円とかで提供されています。これが、店舗で取り扱う豆そのものの販売価格であり、それ以外のものは、店員がお湯を入れてくれ、パッケージにしてくれ、売ってくれるサービス価格であり、店内で飲むのであれば家具やら照明やら清掃やらの代金が入ってくるのは当たり前のことでございますね。

 したがって、大雑把な計算にはなりますが、スターバックスが少なくとも日本で提供しているコーヒーそのものの商いは、コーヒー豆をトールサイズ一杯当たり15円ぐらいで輸入してきて、パッケージに包装して店舗にてお豆で60円台、インスタントで85円ほどで販売しているという事業になります。輸入豆の貿易差益率は68%程度です。それも、スタバの店先の賃貸料は埋没原価になってます。輸送費梱包代あわせれば農家の取り分は二割強といったところでしょうか。

 そう考えると、冒頭で堀江健太郎さんが仰っているような問題意識はやや的外れで、むしろ「外食産業というのは厳しい競争を勝ち抜くために必要な設備投資や広告宣伝負担が大きいから、店舗展開を行ううえでの重しというのは実に厄介なのだなあ」というコーヒー豆全然関係ねえというような結論に本来達するべきなのです。

 つまり、お前らが街角でお茶する代金の結構な割合は不動産賃貸料とコーヒーを煎れてくれる人件費、設備什器代です。店のブランドと環境でセレクトした結果、何十分か店舗内で潰す時間代と思っておけばだいたいあってるんじゃないかと思いますね。

 教訓としては「突き抜けないとこの絵の底に溜まったコーヒーしか飲めないよ」という話ではなく、「駅前に不動産を持っている奴は有利な条件で貸し出しが出来て超有利」とかせいぜいそういう話です。

 テイクアウトしてお家に帰って飲む馬鹿は敗者ということで、ひとつ。お湯でも沸かして飲んでろ。


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    やまもといちろう

    ブロガー・投資家・イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。
    著書に「ネットビジネスの終わり (Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など多数。

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