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2012.02.06

学生のうちから起業するのはあんまり感心しない件

 年末から年明けにかけて、なぜか学生起業家の人たちのプレゼンを聞く機会が多く、また嬉しいことにいろんな交流に引き続き声をかけていただくことが増えました。年寄りになってくると、若い人たちの考えることや吐いている息に若返りのエキスか何かがあるように感じられ、自分も20代に戻ったかのような勢いになる錯覚が心地よいわけです。

 もちろん、彼らからすると、私らのような若年寄を呼びつける理由というのは、大御所ほど押し付けがましくなく、操業資金や事業をやるうえでの人脈など必要な支援はしてくれそうに見えるという下心はあるのでしょう。でも下心はいいんですよ。だって私らはあんなフレッシュで向こう見ずな事業計画に命を賭けようと思うほど若くないのですから。言うなれば、酒場で若い冒険者が次の冒険をどうしようと議論しているところへ、儲かるのか儲からないのか分からないクエストネタを提供する酒場のマスター(≒引退した冒険者)みたいなもんですね。

 その一方で、若いころから会社を設立し、数年経って潰れていった人たちもたくさん見ています。冒険の途中でオークに殺されたとかそういう話なら敢闘賞ですが、だいたいにおいて、事業を進める上での主導権争いだったり、カネで揉めた上での喧嘩別れ後に戦力を失って自沈するケースがとても多いわけでね。

 先日のisologueでは、創業者間での株式買取の方法を書いておられましたが、夢に溢れている若い人は、あまり創業時点での株主間契約を結ぶとか、そういうアプローチはむしろ「ダサい」とか後ろ向きだと考える傾向が強いように思います。もっとも、若い人のみならず、脱サラ的スピンアウトで共同事業を行うケースでも、能力のあるなしで随分取り分が違ってきて袂を分かつ的な事案も多いんですけれども。

週刊isologue(第148号)創業メンバーの中途退任時に株を返してもらう方法
http://www.tez.com/blog/archives/post3446.html

 で、往々にして、一番最初に考えた事業計画というのは実践において失敗に終わります。これは、もうしょうがないというか、最初から考えた事業計画どおりにうまく企業化できて、バイアウトなり上場なり果たすケースは本当に稀なので(身の回りではスリープロぐらいだろうか)、どっかで事業計画の変更、修正をしながら、稼ぐネタを別で作っていくようなやり方にシフトすることがとても多いわけです。簡単にいえば、広告モデルのウェブサービスで起業を志したもののなかなか採算ラインに届かないので、別で情報システムの委託開発の仕事をこなしながら、類似の広告モデルのウェブサービスを新規で立ち上げるコストを賄って夢を繋ぐ、的な方法論ですね。

 ところが、他で仕事をした経験がないと、他社から委託して仕事を請けるといったノウハウがなかなか身につかないわけです。要件定義書だったり仕様書だったり、書いたことがないシステム屋ってなかなか大きい仕事を任せて貰えないという。で、NTTデータさんとか大手の下で仕事をやろうとすると磨耗して、ベンチャー企業を志したはずが単なるソフトハウスになってしまう的な。気づいたら30歳を超えてましたみたいな。

 そういう起業家ライフがいかんというわけではないのですが、他社の考え方や発注・受注にいたる仕組みの問題、学生の時代では絶対に学べない「給料をもらって働く人の気持ち」を忖度する感性といった、世間人並みのビジネス感覚や常識、儲けの仕組みは、就職しないとなかなか身につかないよ、というところであります。
 かくいう私もサラリーマン人生は半年ぐらいしか続きませんでしたが、それでも組織としてのモノの考え方や、人が多くなって事業部が増えたときにどういう話を現場でしていたかという体感は、いまでも思い返してしまいます。だからといって、ずっと居たかといわれると微妙ですけれども。

 どこぞ就職してから、社会人勉強会に顔を出していろんな業界や起業家の人たちの感覚を得つつ自己を研鑽している人もいれば、大手企業にずっといて、一発奮起して起業相談にやってくる人もいるので、その人なりの起業の姿があって当然だと思います。ただ、どんな凄い能力を秘めた人でも必ず一度や二度は転ぶのだ、良い転び方を弁えた起業家が、他の人より二度三度多くチャンスを掴めるのだ、ということだけは知っておいて欲しいと。

 なお、このドクトリンは私がそう言っているだけで、成功を保証するものじゃありません。少なくとも、私はそういう考え方なので、数多失敗したり悪評が立ってもコスト少なく事態を収拾し、利益の出る事業への専心を一定時期ごとに進めているので事業自体は堅実に拡大、成長させてきています。ただ、他の投資家は「成功する人間に必要なものは集中力だ。失敗したらどうなる、と初めから考えるな。いまの事業に全力で取り組め。就業経験など要らん」と言う方法論を説いています。どちらが正しいというものじゃないと思いますが、お好みで好きな思想を採用してください。


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    やまもといちろう

    ブロガー・投資家・イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。
    著書に「ネットビジネスの終わり (Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など多数。

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