【書評】『君よ わが妻よ』(石原典子・著)
普段はこの手の本はお奨めしないのですが、戦場で死と向き合う男が、故郷に置いてきた妊娠中の妻と幼い息子を思い、やり取りする手紙をまとめたこの本が、凄く訴えかけてくるものが強かったもので。
本来であればネタバレをするべきではありませんが、この本は結末を知ってから読むべきだと思います。手紙の出し手である石田光治少尉は、日中事変へと駆り出された挙句、遠い戦地で戦死してしまいます。
死を悟った石田少尉の悲痛で、それでいて、身を案ずる妻を逆に勇気付けようとする深い愛情には、もちろん心を打たれます。読み進めるだけで、物語が死へと収斂していくことが分かっていながら、ここまで字の温もりを感じさせる強さを感じ、引き込まれるというよりは、真っ白になります。
二度読んでください。そも、石田少尉は戦争の中にあって自らの命を危険に晒し、また、苛烈を極め、戦闘が拡大し激しくなっていく中で失っていく戦友、戦地を守る責任感、天皇のため国家のためと書きつつも、実はもっと広く大きいものを守ろうとしている何かを感じさせます。手紙には、勝利を祈念しつつも、戦場となった中国(支那)や憎いはずの敵軍に対する怒りや罵倒と言ったものは含まれていません。
その極限状態にあってなお高潔な人間性を感じさせる文章の素晴らしさと、家族への深い愛情が、戦死という最期に結びつく悲劇はもちろん読み終わったあと頭の中を真っ白にさせますが、それ以上に、時代が時代であるならば、私たちもそこに赴き万歳を叫んでいたかもしれないという別の味が口の中で染み渡るのを感じずにはいられません。
仮に、本当に万が一、そのような事態に自分が置かれたとき、私はいま身重の家内や今日一歳になった息子にここまで深淵の手紙を書き送ることができただろうか、と。
後半は、頭痛がするほどの緊張感です。何しろ、結末は分かっているのです…。理屈ではない何かを強く感じ、単に面白い本を読み進めるだけではない考えさせる何かをもった名著でした。それも、良い本を書こうと思う意図など最初からないという。
是非、残暑で寝苦しい夜のお供に。


Comments
普段、赤の他人にババアだのシャブ野郎だの暴言ばかり吐いている人は見習うべきですね。
Posted by: 苺 | 2010.09.04 at 03:15
破産しない国イタリア
内田洋子/著
おもしろかったよ。
Posted by: | 2010.09.04 at 06:10
うーん。
山本さんもお子さんができたんだなあ、時間が流れたんだなあ、という感想を持ちました。ご一家でご健勝でありますように。
Posted by: 小島師匠の弟子 | 2010.09.04 at 18:53
>是非、残暑で寝苦しい夜のお供に。
どっちの意味ですか??
Posted by: みかん | 2010.09.04 at 20:28
どんだけ精度の高い銃を持たせても無意識に外してしまう事例が多いらしいぜ。
まあやっぱりみんな人間なんだよ。
俺たちの世代はくさい物に蓋をし過ぎて来た気がするね。
Posted by: あらめずらしい | 2010.09.04 at 21:26
18. ネット名無しさん 2010年08月09日 00:52 ID: HwHXuyaD0
以下、40台親父が書く伝聞の伝聞だ。
祖父は満州で戦死した。8月11日だったらしい。
その知らせはすぐに伝わることはなく、
祖母は8月15日、ああ、これで戦争が終わった、
旦那も帰ってくると思っていたそうだ。
が、戦死の知らせを受けて、
8月15日にはとっくに死んでいたことを知り、
「あと4日… なんて無駄な死に方をすることになったのか」と、
思わずにはいられなかったそうだ。
しかし、何年もたって、
戦いと極寒を何とか生き残った祖父の戦友がシベリアから帰って来て、
祖父の最期の戦いに関する話をしてくれたそうだ。
8月9日、ソ連軍が条約を破って攻め込んできた。
祖父とその戦友のいる部隊は急に防衛線につくことになり、
重たい、対戦車肉迫攻撃用の爆薬等を背負って
徒歩で移動することになったそうだ。
で、その途中、逃げてくる多くの日本人とすれちがったそうだ。
部隊の休憩時間中には、
「攻めてきたソ連軍は、民間人相手に相当ひどいことをしている」
という「ウワサ」もしばしば耳にしたそうだ。
(その部隊の指揮官は、
「前の戦争ではロスケは軍紀厳正だったときいた…」
と衝撃をうけていたそうだ。)
まもなく、命ぜられた地点、というところで、
また日本人とすれちがった。
ところが、その南へと逃げる列には大勢の子供がいたそうだ。
(だから遅くなったのかもしれない。)
Posted by: MUTI | 2010.09.05 at 01:57
19. 18 2010年08月09日 00:53 ID: HwHXuyaD0
で、防御地点について、さあ準備、というところで、
部隊の指揮官が祖父等の兵に言ったそうだ。
「お前ら、みんな死ね。
さっきの子供たちを見たな。
お前らがちゃんと戦って死んだら、
さっきの子供たちは、その分長生きできる。
そのために俺は死ぬから、お前らも死ね」
そして、戦闘になり、多くの兵が、
せめてソ連軍の戦車を道連れにして死のうとがんばった。
が、結果的にその防御線は突破された。
俺の祖父がどういう状態で戦死したのかはわからない。
この部隊で生き残ったものはごく少数、
この話をしてくれた祖父の戦友は、ソ連軍の砲弾に吹き飛ばされ、
気絶した後で捕虜になったそうだ。
「私は、ご主人のように立派に戦死することができませんでした。
おめおめと生き残ってしまい、申し訳ありません」
その祖父の戦友は、最後にこう言って、
祖母の前で深々と頭を下げたそうだ。
Posted by: MUTI | 2010.09.05 at 01:58
「硫黄島からの手紙」がよみがえりました。
人と人、国と国。繋ぎとめる力があるひとは、裁断する輩を大きく凌駕するのでしょう。
命は、力。
私も命のあるうちに、何とか「愛されたい」のみならず、「愛する」を実感したい。
Posted by: なにわのマミー | 2010.09.05 at 22:07
年がら年中戦争ゲームを面白可笑しくやる人が、戦争本で感傷的になるのだと改めて感心。まぁレイプモノのビデオ見て、暴行犯に憤るみたいなもんだろう、と。日本の夏は戦争反対が1つの商売風景ってことですかな。
あと「うちの爺ちゃんが」系の武勇伝、「戦争を知らない世代にマスト!」系の上から目線、「平民こそが最大の被害者」系のナイーブナルシスト、これらも夏の風物詩。
Posted by: ヘンリー5世TH | 2010.09.05 at 22:38
こんな風に斜めに見ている俺カコイイも夏の風物詩
Posted by: | 2010.09.06 at 02:09
Web版フォーサイト復活記念記事待ってます!
Posted by: すてれお | 2010.09.06 at 21:44
父よ!母よ!妹よ!
を思い出した。
Posted by: みかん | 2010.09.07 at 12:54