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2010.07.29

ブラックスワンな成功者と、知力の問題

 以前、じじい批判をしたところ、当該じじいだけでなく別のベテランの方からも反論を頂戴したこともあり、仕事の一山超えたところでもう一度書きたいと思います。

神々の黄昏というか
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2010/07/post-b540.html
ソーシャルゲームとブラウザゲーム界隈でバブル発生中
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2010/06/post-0b13.html
誰しも、人である以上は必ず終わる
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2010/06/post-0df3.html

 事の発端は、あらすじ的に言うならば物凄くしょーもないことなんだけど、いまさらのようにソーシャルアプリの存在に気づいた最近パッとしない某重鎮とその一派がこれといった企画案もなしに「俺ならもっと面白いソーシャルアプリを作れる」と言い出し、もうすでに市場として終わり始めているソーシャルアプリの開発に「社運を賭けて乗り出すべき」と微妙な発言を社内でし始め、大口の据え置き機向けの企画がなくなって暇しているプロデューサーやクビになりそうなディレクターたちが自分の宛がわれるラインが増えると期待して「ですよねー」と太鼓の達人ぶりを発揮しているうちに実際のオンライン事業を推進している優秀な責任者たちが負担に耐えかねて次々と体調を壊して戦線を離脱する中、気がついたら事業全体の統括が可能なのは外注先であり傭兵である我々だけであった、どうする下期予算! というお話です。長い。

・ コンテンツは水物か

 水物です。とはいえ、確率を上げることはできますし、特定の客層がついているものであれば、その人が旬でいるうちは、何度でも稼ぐことはできるでしょう。実績があり、重鎮とされる人々は、どういう経過であれ一度その水物の勝負に勝った経験があるからこそ、ネームバリューがあり、彼が手がけるのであれば成功する確率が高いだろうと第三者的に判断され、GOを出すための材料となり、仕事になって部下が喰えることになります。

・ 旬を過ぎた大物

 一度、クリエイターとしてピークを迎えた人が、その成功ストーリーを終えたあとで、もう一度、全く別の分野や次のムーブメントの流れに乗ってコンテンツを当てることができるのか? というところが、ブラックスワン的な観点で重要な話になります。

 「ブラックスワン的」とは、まぐれで当たったことを指しますが、まぐれといっても無茶撃ちではなく、その人が持っていた素地が時代にマッチした、消費者が求めているものをたまたま先行して商品化していた、ということもあり得るので、結果的に一発屋的な大物として扱われることになるんです。

 また、旬を過ぎた大物、というと悪弊ばかりがあるように感じられるかもしれませんが、一度成功してみなければ体得できない感覚もありまして、もう自分が新たなクリエイティブを手がけたり主導して成功させることはできないけれども、次に旬になりそうな人の発掘や、旬になったときに「稼ぎ切る」ためにどうするべきか、といったスキルを持ち合わせる場合もあります。これらは主にその成功者の人格による部分が多いんですが、クリエイターで成功した人は人格的にかなりアレであることもあって、あんまり幸せな戦後を送れる人がいないのも現実です。

・ 作品と人格

 当たり前ですが、次の時代に来るクリエイターは、何々をやり込んで、自分だったらこうするとか、こう作りたいというような作品を踏み台にした制作意欲というのを持っています。また、偉大な作品を下敷きにして、リスペクトしながら、より時代にあった作り方をするようになります。自分が熱中し、没頭した作品に対しては信者化するケースもまた多くて、据え置き機からケータイゲー、オンラインゲーム、さらにソーシャルへとメディアの旬が移り変わっても「あの作品のようなタイトルを手がけたい」と願う優秀なクリエイターはたくさん出てきます。

 ところが、彼らがリスペクトした作品ほど、その作品を作った大物クリエイターというのはリスペクトに値しない人格を具えていることがあります。繰り返しますが、当然のことながら作品の質と、作品を作った人間の人格とは必ずしも比例しません。なので、「あの作品を作った大物の彼と一緒に仕事をしたい」と距離感を失ったクリエイターが寄ってきても、大物が彼を使い潰したり手柄を横取りしたりということは往々にして起きます。悲しいけど、現実にそういうことがあるんです。

・ クリエイティブとは誰のものか

 大物とされる人の仕事ぶりを見るに、その人固有の資質や才能でうまくいったということよりも、その大物をその段階で起用した企業や経営者が偉大であったり、大物の自由な発想を現実に商品やサービスに落とし込めるだけの制作部隊が優秀だったために大成功したというケースが往々にしてあります。確かにあの売れたゲームのプロデューサーは彼だけど、彼を起用した上の騎士団長のほうが優秀だ、ということがあるわけですね。

 会社としては「その会社の制作体制が優秀だ」というほうが事実に近くても、モノを売るための技法として、制作者の顔を見せようということで、最近は実名で堂々とクリエイターの立場や発言をメディアで露出させるようになりました。そうしているうちに、だんだんと本人も成功と自分の能力の「間合い」について勘違いするようになることもありえます。最終的には、給料や待遇についての認識にズレを起こし、ポーンと独立しちゃったりするわけですね。で、その後、そのネームバリューで凄い金額で発注かけてしまい、壊滅的な品質と記録的な販売低迷を打ちたててしまうケースもあるんです。

 でも、失敗しても次の仕事が来たりするんですね、大物だから。

・ 知力の問題

 私たちの経験に裏付けられた知識・ノウハウというのは有限です。経験していないことは分かりません。でも、新しい市場に打って出るときに、過去の知識や経験が必ずしも生きるとは限りません。だから、過去にどんなに据え置き機ゲームの世界で成功したとしても、次のメディア、また次のメディアでやってくる別の市場特性やお客様の要望に必ず応え切れるわけじゃない。なので、そういう環境の変化に対して、クリエイターや経営者がどう対処することが望ましいかという単一の「解」はたぶんないんです。

 解がないからといって、変化に対応しないというのはもっとも解から遠いわけで、必然的に環境に合わせてどう対応していくかを考える必要があり、それにいたるために必要なものは、私は知力だと思っています。知力とは、経験したことのない事象であっても、そこで起きる課題や問題について正しい方向に導き出すための力だと私は考えます。

 環境に適応するために起こす変化として、試行錯誤の回数を増やすために少人数制のチームにするとか、他の開発経験は乏しい人を積極的にプロジェクトリーダーへ登用するとか、別会社を作って機動性を高めるといった機動戦のドクトリンもあれば、より成功率の高い強力なIPを持つ他社と組むであるとか、強力な販路を持ったり優秀な顧客リストを抱えるための投資を増やすであるとか、よりグローバルな調達や市場を志向して国内・海外の組織バランスを調整するとか、縦深防御的なドクトリンもあります。

 現場でどれだけ人を殺したかというような戦果を多数抱えた歴戦の勇者から成り上がった著名な大物の威光ではなくて、どこの戦場にどれだけのどういう部隊をどう投入してどこの戦場を捨てるかを考える人なんだと思うわけですね。

・ 老害の条件

 金ばかりがコンテンツではないし、稼がないコンテンツだから無価値と言い捨てるつもりはありませんが、会社は株主の持ち物であり、利益を上げることが目的である以上、ある程度以上の収益性が確保できていないとどのような事業も存続させることはできません。

 いい物を作れば売れるであるとか、ネットやヲタに媚びればこれだけの数字が出るとか、過去売れたこのシリーズの作品であれば新しいメディアでも信者は買ってくれるとか、会社としてこのサービスを提供することは多少の赤字が出ても良いとか、試験的に赤字でもこのタイトルを投入するとか、現場に出ている者からすると「で、それは次にどういう展開を考えてのことなんでしょうか」と言いたくなるような主張をされるわけですね。全体のプロダクトのうちで、少数の何割かは試験的に・先行して進めるのは反対しません。でも、すでにレッドオーシャンになって、各社血みどろの争奪戦をやっているときに「とりあえず、これ出しましょう」とか平気で言う人が多いのが驚きます。

 それを言うのは、決まって社内で実績を掲げて保守的なポジションに来ている大物さんたちですね。傷つきたくないし、何かあったら誰かの責任にさせられるような保身の逃げ道を必ず用意しているんですよ。「失敗してもいいから、この予算でできる限りの品質を出してみろ」というブレない大物は、国内では一人しか見たことがありません。

 まあ、業界的に今後いろいろ動きがあると思うので、チャレンジする人にご武運を祈るしかありません。

※ 補遺

 「ブログに書くな! 直接俺に言え!」→会議中、直接本人に言う→「会議中に言うな! サシで言え!」→電話しても出ないのでメールを送る→「重要なことは直接会って言ってくれ」→アポイントを取ろうとすると多忙を理由にオフィスに来ない→ブログに書く(いまここ)


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Comments

あはは、容赦ないですね
隊長も形の上では重鎮の域かと思いますが、こういう時一人でやってきて、自分の金でやってる人は強いですよね。日本のゲームは似たようなものばかりで飽きたと外人に言われるのでしょう、枯れる(守りに入る)の速すぎなんでしょう。

余程腹に据えかねる事でもあったのでしょうかね

ていねいに見える言葉遣いの中に渦巻く怨念が見えるようだ・・・

> 現場でどれだけ人を殺したかというような戦果を多数抱えた歴戦の勇者から成り上がった著名な大物の威光ではなくて、どこの戦場にどれだけのどういう部隊をどう投入してどこの戦場を捨てるかを考える人なんだと思うわけですね。


これでガンダムの富野巨匠を思い出したのは、単に「皆殺しの富野」と言われてるからだけですw

 ところでゲームにもゲーム業界にもあんまし興味のないおいら的にはだれのことやらさっぱり判らんのですが、知ってる人は一発でわかるんすかね>隊長の投げた槍のターゲット

この件とは違うけどP社の中の人は体調んとこともう仕事したくない怖いからって

生存者バイアス・・・

去年、四谷の某大学の行動経済学セミナーで
ゲストスピーカーだった○妻女史が
急にパネルに加わることになったディスカッションで
一般参加者からのお題
”某著名米国人投資家をどう思われますか”
に対して

『単なる生存者バイアスでしょ』

と一刀両断にして会場のみならず
お隣のギャンブラー助教氏までもを凍りつかせたのを
目撃しましたが、それを想い出しましたw

【それはお前だろ】

という声なきツッコミをしましたが
会場には活馬ーの大群も多く
声なきツッコミは共有できなかったなー

でも、黒鳥のおっさん(達)に比べれば
被害者は居ないわけだし
出目金おばさんの方が罪はないなーという感想を持ちました

凍りついたのはギャンブラー准教授でしたw

その人物はブログで怒鳴り返したらよかろう。

多忙ならそれに越したことはないと思うが・・・

最高です

次は、また、お手紙が届くのか、「残念です」とか言われてw

芸者ゲームをつくって世界に売るとかできないかな。接客されて楽しむのでなく、接客してお金が入ってくるような。アダルトな部分は世界では確立してきているみたいで、なんかスゴイんだよ。なので、ノンアダルトで接客する側がちゃんと報酬が得られるゲームがいいな。

あと、今の20歳前後の感覚って、ニュータイプみたいな、ぜんぜん違う感じがして、すごくひきつけられる。大人によっては、彼等を見たら、すごく心配になるかもしれないけど、それがいい感じだな。

ま、そのためには、失敗してくれる大物の方々も必要で、隊長が敗戦処理しつづけていく運命なのかなぁ。

ただ思うのだけど、お金は使って遊んだ方が面白いと思うのだよ。ない人は遊べないようだけど、ある人がない人の分をもって遊ぶほうがいいんじゃないかな。

結局、社会に出ていない若い人が社会にでてくるわけで、世の中が大きく変わるような感じがするから、ま、いいかな。消費税は2割にした方がいいという意見もあったし。なんか本当にすごいよ。

なんか、ブログ系論壇が、古くみえるw

あと世界はもうれつに広いからさ、日本人や日本国に関心がある若者がたくさんいて、彼等を実感できるネットになってきているのもいいな。これも不思議な流れだね。ま、それだけ、日本に希少価値があるんだと思う。変で異質で、恥ずかしがり屋な割には、丁寧で、親切で、そういうところが心地よいのかな。

まあ、一クリエーターとして仕事をするには良くても、プロマネとしては適してないか。
上にも出てきた、富野さんとか、宮崎駿さんとかはその辺どうなんだろうとも思いますが。やっぱ廻りに知恵者が居るのでしょうかね。
昔は一人でも出来た、あるいは専制君主的でも廻りは下働きで良かった時代と比べ、今はコンテンツを作るのも売るのも、それなりの設備投資と専門家集団が必要になってる。
そうなると、昔の徒弟集団ではなく、専門家達をまとめるリーダーシップが必要になってくる。当然、チームをまとめるための人望とかが必要になっってくるわけで、その辺得手不得手もあるでしょうけど、少なくとも本屋に行って、適当なリーダーシップに関するテキストを幾つか読んで勉強して、最低でもバッドノウハウはやってくれるなよ。w その辺に対応出来てない御大が多いのでしょうね。
正直、黒沢監督も終わり頃は昔の名前で喰ってた感じだし。富野氏は自分でもそう明言してるし。宮崎氏はなんかジブリの雑誌で、デジタルガジェットに対して勘違いしたたとえ話で返してるし。
宮崎さんは、「実感できない」とか言ってたけど、あんたは仕事で櫓を漕いだことあんのかよってww。自分も想像で言ってるだけじゃんってね。

まあ、一クリエーターとして仕事をするには良くても、プロマネとしては適してないか。
上にも出てきた、富野さんとか、宮崎駿さんとかはその辺どうなんだろうとも思いますが。やっぱ廻りに知恵者が居るのでしょうかね。
昔は一人でも出来た、あるいは専制君主的でも廻りは下働きで良かった時代と比べ、今はコンテンツを作るのも売るのも、それなりの設備投資と専門家集団が必要になってる。
そうなると、昔の徒弟集団ではなく、専門家達をまとめるリーダーシップが必要になってくる。当然、チームをまとめるための人望とかが必要になっってくるわけで、その辺得手不得手もあるでしょうけど、少なくとも本屋に行って、適当なリーダーシップに関するテキストを幾つか読んで勉強して、最低でもバッドノウハウはやってくれるなよ。w その辺に対応出来てない御大が多いのでしょうね。
正直、黒沢監督も終わり頃は昔の名前で喰ってた感じだし。富野氏は自分でもそう明言してるし。宮崎氏はなんかジブリの雑誌で、デジタルガジェットに対して勘違いしたたとえ話で返してるし。
宮崎さんは、「実感できない」とか言ってたけど、あんたは仕事で櫓を漕いだことあんのかよってww。自分も想像で言ってるだけじゃんってね。

俺ら兵隊は飯が喰えりゃいいんですよー
ゴハンゴハン肉肉~、みたいな。
 
どんだけ偉くても数字だせないディレクターやプロデューサーは見下しちゃうけどねー

えー口だけー?マジでー
 
みたいな。
 
消耗戦挑んだ挙句この始末かよ、みたいなー。

スタジオジブリの真逆だということだけは理解しました。

優秀で素晴らしいと評価された人が何かを生み出すのではなくて、ある時に突拍子もない思想を持っていた人が生み出した何かが優秀で素晴らしいと評価される。

時代に選ばれる、とかってやつですか。

んで選ばれた経験者にしかわからないことがあったりするのだけど、隊長のお相手は掴めてない方で、かつ選ばれたのでなく、自分で成ったと自負する方であると。

なんだろ、物語とかでよく討ち死にされる歴戦の将軍Aとかお似合いの方のようで。

そいで、隊長は戦で負けないように、その方をサポートしなければいけなくて換言するのだけど、その方は聞く耳持たずと。

…傭兵って言うか苦労を背負い込む主人公一行みたいな立場ね。
だって、物語だと、傭兵って呼ばれる方は負け戦を嗅ぎ分けて逃げるもの。

てことで、これしかいえないです。頑張ってください。

今日も隊長はムーンにフィット。

基本、バンダイナムコの話が多いですよね、隊長。青物横丁とか。

>気がついたら事業全体の統括が可能なのは外注先であり傭兵である我々だけであった

鷹の団だ!

全然関係ないけどこんなのみつけました
http://ymiwa.exblog.jp/13671352/

話の論旨はどうであれ、「太鼓の達人」って表現は、金輪際パクる。

戦国IXAの立ち上がり方がひどすぎるんですが、それ関係のネタもどうぞよろしくお願い申し上げます。

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    ブロガー・投資家・イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。
    著書に「ネットビジネスの終わり (Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など多数。

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