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2009.12.25

補遺:新聞業界を含むメディア再編話についての補足

 日経BPのインタビューを受け、ついでにこのブログでもエントリーを書いたのですが、遠回しに書いたり冗長にしたりしてぼやかしてたら、まだ趣旨に誤解があるようなので。

新聞のネット進出が苦戦続きなのはなぜか
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20091222/202408/
日経BPで、グループ会社の悲哀を代弁するコメントを寄せました
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2009/12/bp-d3a5.html

○ もちろんポジショントークです

 記事もそうですし、メディアから通常の取引の範囲内でお金を貰って書いています。メディア企業から戦略のすべてを開示されているとか、全部が本音を言われているとは当然思っていないけれど、打った手の狙いや背後関係や組織人事といったところはある程度は知っています。

 通常の取引以外でも、個別に記者や社員は各社さんお話を賜ることは勿論あります。八年以上の付き合いですし、私を含め、皆それぞれまともに仕事に向き合い、立ち位置が高くなることだってあるわけですから、それなりの力学というものが働いていたとしても、それは仕方のないことだと思います。

○ 趣旨は、縮小均衡(リストラ)とコア化&セグメント化です

 マスコミ擁護だ新聞贔屓だというお話を頂戴しましたが、不振業界のリストラ話と商品の少量多品目化というメーカーの経営再建と同じ土俵の話をしております。収益が下がった、赤字に転落した、といろいろ騒いでますけど、それはフローの話です。

 毎日新聞を例にとれば、売上はいまなお1,300億円、赤字は中間で12億、残資本は750億円で、キャッシュがないから大変だというだけで、年間約30億円のコストを使ってリストラをすると黒字に回帰してしまうという難易度の比較的低い再建案件です。前回エントリーではJALと比べたけれど、単体業績で見る限り、適正な経営努力を払えば経営課題の解決は容易です。

毎日新聞、中間決算が2年連続の赤字
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20091224-OYT1T00986.htm

 そういう合理化努力を払わずに、詳しく知らないデジタル分野に多大な投資をし、毎回損ばかりしている会社は、グループ企業の収益化やリストラ努力などに資金を投じたほうが、はるかに経営効率は高まると論じているのです。

○ 報道は社会的公器ですよ

 いわゆる「マスゴミ批判」の話ですが、この手の話は三橋貴明氏の著作に詳しいです。

マスゴミ崩壊~さらばレガシーメディア~

 彼の著作の視点は長期的ですが、基本的には業界再編についていうといくつか大手は潰れるけど市場がある程度残ればそこで喰える会社数にまで減ることで均衡します。オーバーストアと書いたのはそういう意味です。だから、紙メディアが衰退産業であったとしても、需要が残れば何社か潰れて何社か生き残ります。

 ビジネスって、成長だけが重要なのではなく、いわゆる残存者利益というものがあります。また、既存メディアから脱藩した人が、受けたジャーナリスト教育を活かして各種ウェブメディアで活躍しているという点も忘れてはなりません。ヤフーニュースであれJBpressであれITmediaであれ、優秀な元マスコミスタッフが記事の質を担保し保証しているサイトは、やはりPVを伸ばし支持される傾向にあります。それが利益に結びついているかは別問題ですが。これら、包括的な仕組み全体を持って「公器」"a public organ"と理解すべきです。

○ ネット「だけ」での意見は、依然少数派です

 いわゆる「ネットがあれば、新聞は要らない」という生活を送っている人は増えており、マジョリティの域に達しつつあるのは事実です。長期的には、紙メディアからネットへのシフトをしていくのは間違いないです。

 では、それが「いま」そうであるかというと、新聞が出した情報をウェブでタダで読んでいるだけであって、ウェブの報道機関がウェブで出した情報のシェアは微々たるもので、それが広告シェアで何%あるのかというと、まあクソみたいなものです。

 マスゴミ批判に共通しているものは、上記三橋氏の明らかな釣り書籍とは別にして考えれば、マスコミが見せている分かりやすい側面だけを部分的に切り取って批判しているか、稀に出る極端に低い品質の記事や報道を過大に解釈して、まるでマスコミが全部誤報を流す機関であるかのような批判をしてしまう傾向にあります。実際の問題は、新聞やテレビといった報道機関が持っている装置産業的側面が即時性の高い情報を提供するシステムを構築し切れておらず、無料のウェブに情報を流してしまっているので客を逃しているという戦術的ミスにあるのです。これに関しては後で書きます。

○ メディアが読者と一緒に歳を取るのは一般現象です

 公器の部分でも話をしましたが、新聞業界が参入障壁を擁し既得利権の類になったのは、ある意味で「報道税」に近いものがあります。

 朝から晩まで携帯を手放さない若者が、成長してこれかどんどん社会に出てくる中で、新聞が情報シェアを維持できるはずがないじゃないですか。だから、紙メディアだけではなくデジタルメディアにも手を伸ばしたいという気持ちは分かります。

 ただし、紙に印刷するために最適化された仕組みや組織を、そのままデジタルに持っていって、記事を一本仕上げるのに4時間も5時間もかかっていたのでは、勝てるはずがないのもまた事実です。

 じゃあ論説をやればいいじゃないか、という話もあるわけですけれども、新聞記者のようなオールラウンドだが専門ではない人達が書いた記事を高い金出して読みたいですか。コストとして年間2,500万近くかかる編集委員や論説委員の記事を一本500円(雑誌以上)で読むとして月200万の固定費を埋めるのに4,000人の有償読者が必要になります。そういう人が各社100人単位でいるんですから、デジタルに出てきて採算に合うわけないでしょ。もちろん、優れた記者さんも多くいらっしゃいますが、そういう稼ぎ方ができるのであれば、それこそ新聞社に籍を置く必要がなくなりますよね。

○ 自分一人喰えればいい作戦と、一万人単位の企業をどうにかする作戦は違います

 メディア産業で大きいところは高い給料で多くの人が働いています。総需要が減って利益率が下がっているのだから、これではやっていけないというのは誰でも分かるとして、業界として閉塞感が漂っている、だからこうすべきだ、の処方箋は結構考えるのが困難です。

 記事の質を高めて魅力のあるコンテンツ作りを、というのは自由ですが、新聞記事の質が高くなってどれだけの売上が伸びるんでしょう。記事の質を高めるのに、どれだけのコストがかかるのでしょう。質が良ければ売上が上がる、というのは、品質がすぐに名声や売上に跳ね返る個人か小企業でのメディアが考えていることに過ぎません。もちろん、品質を犠牲にしていいのか、という議論はありますが、じゃあ新聞の文化欄や科学欄、株式欄というのは品質が高かったのでしょうか。

 問題は、業界を成り立たせるシステムのところにあります。そのシステムが構成している要素とは、平たく言えば政治力であり参入障壁です。それは利権だ、許されない、と批判するのは結構なものの、明日あさって自由参入の業界になったところでいまどき新聞業に参入するアホはどれだけいますか。

 だから、産業としての利益を考えるのであれば、遅滞戦術をしながら局地戦を戦える組織を少しずつ作り上げ、兵站が維持できる期間内に戦線を押し返す努力をすること以外方法はないよという話です。

○ とはいえ、一般の人に読ませるには生々しすぎました

 前に出した書籍の反省でもあるのですが、ちと業界ネタが強すぎたかもしれません。

 ただ、メディア産業は構造や仕組みに対する理解は非常に高く、現場で問題意識を感じている人たちは、状況が悪化し続けていることやその理由について、かなり明確に、体系的に知っています。ただ、自分の立場や役割では、そのような経営批判に直接繋がるようなことは社内でもウェブでも話しづらいのはまた事実だろうと思います。


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Comments

主要な新聞を全部読んでるヤツらと話をしていて、
「もし一紙しか読めなくなるとしたら、どれを取る?」
と聞くと、全員が
「日経流通新聞(MJ)」
とこたえました(笑)。

あと、「新聞はいらないけど、折込広告は欲しい」
って意見も結構あったな

そんなもんなんでしょうね。ええ、ええ

世の中の景気が悪くなっている根本原因がまさにここにあると思います。

マスコミの世界に限らず流通の世界もそうですね。実店舗の既得権益をネットショップやアフィリエーターたちが食い物にしだしたわけです。

ネットは世の中を極限まで効率化することでしょう。それ自体は消費者の利益になりますから、悪いことではないはずです。

しかし既得権益者にとってみればたまったものではないですし、結果的に市場は確実に縮小し、社会全体が貧しくなっていきます。

政府や日銀が上から目線でデフレだ不況だと言ってもまったく解決になりません。政治家も経済学者もネットが経済に与え続けているインパクトの大きさに気が付いていないのだと思います。

こういうエントリを上げてくれるのを見ると、
なんだかんだいって隊長は親切だよなと思った。
いや、わけのわからない絡まれ方をしたから、補足エントリを上げただけかもしれないけど。

それはともかく、本気でマスコミという機能の全滅を願っている人はかなりの少数派だと思うので、
再編なりリストラなりで安定してもらいたいところ。

メリクリー\(^p^)/

それで、若手の人達は給料が減っても仕方ないから縮小均衡していこうよ、と思っているんでしょうか?w
それともやっぱり仕方ないとは思えていなんでしょうか?

それで、若手の人達は給料が減っても仕方ないから縮小均衡していこうよ、と思っているんでしょうか?w
それともやっぱり仕方ないとは思えていなんでしょうか?

「ネットビジネスの終わり」で書かれてた事の補足って感じですな。
地方は特に動きに鈍感ですが、これから地方紙を金払って観ていた世代及び家庭がごっそりいなくなるのはすぐそこだと思います。
当然、新聞印刷を請け負う業種もドカンと潰れるわけで、大きな印刷所がある地区はさびれてしまう事でしょう。
・・・さびれちゃいます。大変です。

補遺をつける必要があったのかすら不思議で、どこが生々しいのか解らない自分の知的水準が低いだけなんだろう、ってナニコラ蛸コラ的に非常に焦ってる、ナウ!→って今更wwRT@俺

>記事の質を高めて魅力のあるコンテンツ作りを、というのは自由ですが、新聞記事の質が高くなってどれだけの売上が伸びるんでしょう。

これは同感。

新聞屋のWEBに限らず、WEB媒体の広告収益はトラフィックに対価を支払うような仕組みだから、クオリティーの高い(自慰的な意味ではなくて)きれいな言葉とか、写真とか映像よりも、収益的な意味での顧客である広告主は、コンテンツのクオリティーなんて見ちゃいない。

それじゃ、クオリティーの高いコンテンツに読者が対価を払うかと言うと払わないから、コアなファン(マニア)層を獲得している専門媒体でさえも限りある予算でコンテンツを量産してページ増やし、googleにキャッシュさせてトラフィックを稼いでになっちゃっているから、クオリティーは二の次になりつつあるから、肌感覚で劣化している感じがある。

マクロな話ですが、今後どうなるだろう?

あと、
>新聞の文化欄や科学欄、株式欄というのは品質が高かったのでしょうか。

っていう話だけど、メディアのクオリティーという意味では企業や団体の広報にも問題があるよ。

特に製造業の新製品情報をgoogleニュースで検索して、掲載先を比較するとわかりやすけど、広報も予算がないから、専門媒体を発表会に呼ない。

そりゃ、ジェネラリスト(公器)な新聞記者が、無理矢理書いた記事と、それ専門(商材)しか書けないスペシャリストの書いたコンテンツがどっちが優れているかというと、そりゃ後者のはずなんだけど、パイの小さい専門媒体でクオリティーの高い記事で自社の商品を露出するより、新聞やテレビで一言でも露出した方がパイがでかい判断が働いているんだろうね。

やばい…下手するとコンテンツを作る人間がいなくなる(笑)

以上、関係者(?)の愚痴で失礼しました。

新聞社で記者をしています。うなずきながら読ませていただきました。隊長のご指摘を当社の経営陣に聞かせてやりたいです。新聞社のコンテンツ制作は「つくりこみ」です。何人もの兵隊(取材記者)がいて、キャップがいて、デスクがいて、当番編集長がいて。ものすごい手間とコストをかけて、紙面にギュウギュウ押し込む作業です。そして肥大化する管理部門。報道以外の赤字事業から手を引けば、もっとジャーナリズムと真剣に向き合えるのに、とも思います。

新聞の論説や雑誌なんて、結構なスペースがどっかで聞いたような論調の垂れ流しなんだから。そんなもん個人のブログでも出来るし、そんな機能を何社分も抱えてた方がおかしいんだよ。

古いメディアは古いメディアらしく、蓄積で延命することは出来ないの?例えば日経テレコンみたいなデータベース(過去記事検索)とか。今は微々たるものなんだろうけど、あんな感じのものを個人レベルでももっと気軽に利用出来るようにすれば、有料でも使う人いるんじゃないの?

私としては、記事の複製がネットにのるのではなくて、ネットからは検索ができたり、統計データとリンクしてたり、一連の解説がみれたりといった深みのある記事を期待します。

それこそ、日本の、いや世界の知能をつぎ込んだシステム作りを地道にしていけば突破口はあるかもしれません。単なるネット検索システムに数十億を投資するのはどうかと思いますが、、。

Googleのように、すべての情報を蓄積するような日本語のシステムをもっていたら、そして、それが質の高い情報で構成されていれば、十分にお金を払う価値があるように思います。

それでも当面は、新聞記事検索の販売コストをなくして(つまり事業を停止する)しまって、新聞購読者に無料で開放するのが現状では一番はやいと思われます。システムもGoogleのように低コストの自分たちのつくったものにしていくとペイしていけるのではないでしょうか。

そうすれば、一日中その新聞社のサイトを利用する人たちがたくさんでてくるのではないかと思っています。バイト単位の極薄い課金はいいかもしれません。

他の社や共同通信など配信会社と同程度のものなら、ネットで収益を上げられる見込みがないですね。

問題のひとつに、記事がイベントドリブンで、なにかニュース価値があると思われる事象が起きたときにそれを追いかけることがほとんどだという。

また、ニュースの範囲が国内に偏りすぎていて、国内情報なら、どこでも仕入れができてしまうし、ネットでは格好のネタ提供になってしまっているのではないかと思える。

問題を掌握する力を育ててこなかったので、海外の記事をふんだんに載せたところで、読者にとっては読む価値を見いだせない状態になっていて意外と個性を狭めてしまっている。

といった問題を感じています。

最近は少し見かけるようになりましたが、記者会見会場でパソコンを使っている記者は、まだまだ少ないです。首相の記者会見なら、すぐさま文字化されて社内ネットで共有されて、様々なレベルの分析がなされる体制が必要な気がしますが、どうなんでしょう。

本当にデジタル化を考えるなら、今の新聞の価値をもっと高める&コストを半減する方向に使ってもらいたいと思いました。

それができていれば、多分、ネットにでる仕組みも自社で考えられるんでしょうが。

最後になりましたが、力のはいった記事を見せていただき、ありがとうございました。

>>邯鄲さん ばばさん

私も作り手になるのですが、そもそもご自身が私生活の上でネット上のコンテンツに対価を支払うことをしているかな?

ぶっちゃけ、僕はアダルトコンテンツにしか払ったことがない。

超内需産業なんだから、輸出企業やアメリカの太鼓持ちをするより
内需をどうにか育てようという気がある現政権にもうちょっと
優しくしてあげれば良さそうなものなのにね。

結局、輸出企業中心のお金の流れで持ってる既成産業は一度
ガラガラポンするより仕方ないんじゃないかね。
隊長の言う通り縮小均衡が一番現実的な選択だとは思うけれども
プライド的に無理だと思う。

to 邯鄲さま
現場の方が納得してはいけない話だと思いますよ

利益相応までB/Sの左側を圧縮していく話ですから
経営者・投資家目線として正しい話ですけど、
結局、それだけのことであって
むしろ現場には反発して頂かないと報道全体が
沈むことになると思います。

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    ブロガー・投資家・イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。
    著書に「ネットビジネスの終わり (Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など多数。

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